子供にピアノを習わせている親の悩みとして共通する点は、子供が練習を嫌がるといったことかと思います。最初は音が出るということが楽しいと思っていても、徐々に曲の難易度が上がるにつれて練習に嫌気がさす子は数多くおります。
編集部がプロの音楽家に取材を行う中で、演奏が上達するコツは楽しんで練習に取り組むことという意見を頂きました。練習を嫌がっている子供に練習を強制させても演奏技術の上達は望めません。
この記事では、子供が自発的にピアノ練習に取り組むようにする方法をご紹介させて頂きます。
1. 小さな子供も理解できる「時間」の使い方。
小さな子供でも時間という概念はしっかりと感じています。よく勘違いされている親御様は、練習時間が長ければ長い程良いという考えをお持ちですが、ダラダラと長く続ける練習よりもメリハリを利かせた練習の方が効果は高いです。この章では「時間」の使い方について紹介をさせて頂きます。
1-1. タイマーで時間を区切ると効率的
最初は5分間を設定して、「タイマーが鳴れば終わりね!」と子供に伝えましょう。
5分は演奏をしていると非常に短く感じるため、子供にもう終わり?という感覚を与えることができます。また、この短い時間でも集中して練習を行うことで技術の上達を感じることができるため、短い時間でも上手にできるようになったと子供の自信にも繋がります。
5分に慣れてきたら、10分・15分・20分と徐々に時間を増やしていきましょう。
ただ、子供の集中力を考えると30分くらいを最長と捉えて、30分経過したら休憩、演奏と違ったことを行うことでリフレッシュさせた方が良いでしょう。
1-2. 練習時間の終わりを明確に告げること
練習を嫌だと思っている子供にとって、この練習はいつ終わるの?ということは、子供心にとても意識されています。よくあるパターンとして「○○ができたら終わりだよ」といった形で、子供に話をしている親御さんを見かけますが、コレはNGです。○○ができるまで延々と練習をやらされるという思いを植え付けてしまうため、子供は益々練習するのを嫌がるでしょう。
今日は○分まで練習すれば終わりにしましょう。という形で初めから練習が終わる時間を子供に伝えることで、子供にも明確なゴール(終わり)があることをしっかりと理解させましょう。
大人でさえ終わりが見えない仕事等には嫌気がさします。子供にとってもそれは同じことなので、できるだけ練習前に嫌な気持ちにさせないようにするために終わり時間の提示は必ず行いましょう!
2. 子供のやる気UPに間違いなく貢献するのは「ご褒美」
物で釣るのは良くないと思われる方も多いかと思いますが、子供たちのモチベーションには確実にプラスとなります。子供時代を思い出して頂くとイメージしやすいと思いますが、ちょっとした文房具等の普通の商品であっても、ご褒美として提示されるとやる気が出てきた記憶はないでしょうか?
実はご褒美には重要な点が1つあります。
それは単発的に毎回与えるのではなく、継続して努力をした先に与えるということです。分かり易く例えると、ご褒美をイベント化して楽しませるといった形が重要です。
毎回貰える物に対しての価値は直ぐに失われます(大体、3回位でありがたみ、やる気は失われてきます)。
継続した先にあるご褒美は、そこまで辿りついた達成感を子供に感じさせて、努力をすることの意味を子供ながらに理解することの手助けにもなります。
それでは、いくつかの事例をご紹介させて頂きます。
◆100曲合格までの道
曲を弾けるようになるたびに、ゴール(100曲)までのマスを一つずつ消していきます。
ゴールしたらご褒美という設定をすると、子供もかなり時間がかかると思ってしまうので、やる気が続きません。30曲ごとくらいに小さなご褒美を設定してあげると取組みやすいでしょう。
また、最後の10曲くらいはその子供の技術よりも難度が高くなるような曲を設定しましょう。通常では取り組みに尻込みをする形の曲でも、残り10曲でゴールという状況であれば子供のやる気は違います。「今まで数多くの曲を成功してきたから大丈夫だよ」と励まして頂き、子供がこれまでに数多くの曲を演奏できるようになった実績を思い出させてあげましょう。
◆練習カレンダーによるポイント集め
毎月、練習カレンダーという形で日付が書いてあるカレンダーを子供に渡します。
30分練習をしたら○、1時間練習をしたら◎といった形で子供に印を付けさせます。
例えば○=1ポイント、◎=2ポイントとして、月末に30ポイント貯まっていれば商品交換券を1枚、50ポイント以上なら2枚渡します。その年の年末(クリスマスがイベント的にもGood!)に、商品交換券と商品を交換できるようにしましょう。
1年間の継続した頑張りと、毎月自分がどれだけ練習をしたかを子供が実際に目で確認できるという点がこの運用方法の肝です。
3. 子供の成長を促す褒め方・行動規範。
子供が成長すれば自分で物事を考えるようになります。練習が嫌いな子供も自分でどう行動するのが正しいかが分かれば、練習が嫌い=練習をしないということにはなりません。この章では、子供が自発的に考えるようになるための親の接し方等をご紹介させて頂きます。
3-1. 子供の自立「責任」とは?
親が子供に教えることの中に「責任」という考え方があります。
責任は英語でresponsibilityです。これはresponse(反応する)+ ability(能力)ということですので、反応する能力と捉えることができます。
何かの事象に対して反応する能力があるということは、事象の原因を考えてよりよい方向に持って行く能力と表せます。つまりは、考える能力と行動を起こして結果を良い方向へ持って行く能力のことです。
例えば、先週の宿題として出された課題曲が上手く弾けなかった子供がいたとします。ここで大切なのは「何故できなかったと思う?」と問いかけることです。子供が自分で練習をしていなかったからという答えに辿りつくまで根気よく問い掛けましょう。練習をしなかった自分の責任であることを子供が理解すれば、それは大きな一歩の前進といえます。
3-2. 気持ちを立て直し肯定的な前進を手伝おう
もうできないと折れてしまった子供の心を持ち直させて、前向きに進めるように手伝うということは、頭で分かっていても実際にはとても難しいことです。大前提として子供は話を聞いて欲しいのです、そして気持ちを理解して欲しいのです。そんな手助けができるような聴き方のコツをご紹介させて頂きます。
◆事例紹介
子「もうピアノ弾くのやだ。」
母「何で嫌になったの?」
子「ここが何回やっても上手く弾けない」
母「ここは難しいよね。お母さんも上手にできるまで時間掛かったよ」
子「上手くできないからもう止める」
母「そうだよね。難しいから練習したくなくなっちゃうよね」
子「だから、もう止める。」
母「その気持ち良く分かるよ。一つだけお母さんに教えてくれない?」
子「なに?」
母「できないから止めちゃうのと、もうちょっと頑張ってできるようになるのどっちが良い?ここまで上手に弾けているのに、お母さんはもったいないと思うな」
子「それは、できるようになった方が良いとは思うよ・・。」・・・※1
母「そうだよね。」
子「でも、できないんだから」
母「じゃあ、どうやったらできるかお母さんと一緒に考えてみようか」
できないと感情的になっていた子供は、親と話す内に落ち着きを取り戻します。このプロセスを何度も体験することにより、子供は感情のコントロール方法を覚えていきます。
子供が望んでいるのは否定的な感情を受け止めてもらい、自分の感情を肯定的な所へ導き出して欲しいということを理解しておいて下さい。
赤文字(※1)の所で「できるようにならなくていい」という回答をする子供もたくさんいます。そんな時にも忍耐強く話を聴いて、まずは受け入れてあげましょう。そして、肯定的な方向へ誘導していかなくてはなりません。間違っても「何言っているの。やらなきゃダメ!」といった形で怒るのは絶対に止めましょう。
4. 子供の考えが変わる!?父親が行うコーチングの重要性
母性と父性という2つの違いをご存じでしょうか?
母性は子供を苦境からすぐに救ってあげたいという想いや行動ですが、父性は子供の苦境を優しく見守って問題を自分で解決することを待つという違いです。
仕事を達成するプロセスを子供にあてはめ、子供のやり抜く力を育てるには父性が非常に有効です。実例をご紹介させて頂きます。
「実際の会話の流れ」
1. 得たい物を明確にし、具体的かつ肯定的に決める。
父「ピアノの練習ちゃんとやってる?」
娘「あんまりかな・・。」
父「無理しなくても良いんだよ」
娘「でも課題だからやらないと」
父「でも全部の曲、本当にできるの?」
娘「2曲しか無理だと思う。」
父「2曲を完璧に演奏できれば満足できる?」
娘「発表会の曲をその中から選べるから満足できるよ」
上記の流れで、2曲を練習して演奏できるようになるということが具体的に決まりました。また自主的に2曲と答えを出しているので、この2曲を練習するというのは子供の中で肯定的な意見となります。
2. どれだけ幸福になれるかイメージをさせる。
父「2曲を完璧に演奏できるようになったら、どういった気持ちになるかな?」
娘「発表会の曲を2つから選べるから、お母さんが好きな曲を選んで欲しい!お母さんに喜んでもらえると思うから私も嬉しいよ」
幸福な自分の姿をしっかりとイメージできるようになっています。
3. 実現できるように具体的な目標を立てる。
父「それは良いね!じゃあ2曲はどれにしようか?」
娘「ゆっくりとした曲とテンポの速い曲にして、どっちが良いか演奏できるようになってから決めたい」
何曲も課題曲を練習することは、量が多くてうんざりすることもありますが、自分で決めた目的のある目標に対しては、やり遂げることのできる可能性がUPします。
4. 実現に向けた案を複数立てる。
父「じゃあ、練習はいつやろうか?」
娘「学校から帰ってきてからにしようかな」
父「他にはない?友達と遊んだりもあるんじゃないの?」
娘「そうだぁ。じゃあ晩御飯の後かお風呂に入った後にしようかな」
複数の案を立てる理由は、一つの案だとやらされていると感じてしまうからです。他にはない?との問いかけをしてあげることで、いくつかの可能性が出てきますので声掛けは絶対にしましょう。
5. どのプランが良いかを検討する。
父「いっぱい案が出たけど、どれにしようか?」
娘「お風呂上りにする」
出てきた複数の案を検討し、晩御飯の後にはテレビを観ることがあるので、お風呂上りに練習をすることになりました。複数の案から自分で選ばせることにより、やらされているという感覚は無くなります。
6. プランを実行し、自己評価と見直しを行っていく。
父「おっ!練習頑張ってるな~」
娘「お帰りなさい。偉いでしょ!」
頑張ってるねといった形で声掛けを行いましょう。注意すべき点は、もっとできるんじゃない?といった声掛けは絶対に行わないようにすることです。波に乗れば子供は、自分でもっと練習に取り組むようになりますので、よっぽど大きなズレが無い限りは見直しは本人にやらせるようにしましょう。
コーチングとは「自分でやるって言ったんでしょう?」と文句を言ってやらせることではありません。子供の考えを最大限に引き出し、それの段取りを組む手伝いを行い、最後は自分で選ばせてやる気を引き起こすようにすることです。子供相手で初めのうちは戸惑うことがあるかもしれませんが、会社で部下に教育をする延長で考えて頂くと取り組みやすいかと思います。
5. まとめ
ピアノの練習・演奏をするのは子供です。親はあくまでも手助けをする・見守るという立場に過ぎません。子供が練習をしない(言うことを聞かない)からといって熱くなってはいけません。子供のやる気を引き出してあげることが親の務めです。
是非、この記事を参考にして頂き、お子様と向き合って頂ければ幸いです。
※参考文献
子どものやる気のコーチング 菅原裕子著 PHP文庫